writer : techinsight

【名盤クロニクル】ケージ生誕100年に向けて ジョン・ケージ「ある風景の中で」

(ジャンル:クラシック/現代音楽)

再来年2012年は、アメリカ作曲界の重鎮としてヨーロッパ音楽に衝撃を与え続けたジョン・ケージ生誕100年になる。
ケージと言えば、ピアニストがピアノの前に座ったまま一切ピアノを弾かないという作品「4分33秒」が有名であるが、彼の40年代の作品には非常にラブリーなものもたくさんある。

その中からピアノ曲を集めた作品集が、今回紹介する「ある風景の中で」である。

ここで演奏されているのは、普通のピアノに加えて、ピアノ線にゴムやボルトを挟んで音を変調させたプリペアド・ピアノ、そして小型のトイピアノ(おもちゃのピアノ)である。

1曲目「ある風景の中で」と8曲目「夢」は、ともに美しいピアノの単音メロディが連なっていく静謐な美にあふれた作品である。

一方、2曲目「マルセル・デュシャンのための音楽」4曲目「季節はずれのヴァレンタイン」そして6曲目「バッカスの祭」は、先に紹介したプリペアド・ピアノを用いた作品だ。

プリペアド・ピアノは、ピアノの音を変調することで、時にはイカれたオルゴールのように、ある時にはガムラン音楽のように響く、楽しい楽器だ。

もともと、プリペアド・ピアノはケージが舞踊音楽のために打楽器アンサンブルを書きたかったのだが、その劇場にはピアノを置くスペースしかなかったので、ピアノの打楽器化を試みたというのが発端である。

しかしながら、必要に迫られて発明されたものの多くは、その必要が去っても発展し続けることが多く、その後、ピアノ線に挟むべき素材(消しゴム、木ねじ、ボルト)などが細かく検討されるようになって、ひとつの楽器として完成されるようになる。

また、トイピアノ(おもちゃのピアノ)も、18世紀のクラヴィコードのような小さくて優雅な音を出す楽器として効果的に用いられている。

ケージは多作家だが、人気作は1940年代のプリペアド・ピアノ作品や打楽器作品に集中している。

それはケージの全貌ではないのだが、何よりも音楽の楽しさを満喫させてくれるものとして愛されている。本アルバムもケージ入門として筆頭に挙げられるべき名盤であると言えよう。

(収録曲)
1. ある風景の中で
2. マルセル・デュシャンのための音楽
3. スーヴェニア
4. 季節はずれのヴァレンタイン
5. おもちゃのピアノのための組曲
6. バッカスの祭
7. 瞑想への前奏曲
8. 夢
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)