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あの伝統女子校が120年の歴史で初!僧籍を持たない民間校長誕生 その理由は?

「ゆとり教育見直し」「公立高校無償化」…公立校への期待が高まる中、長引く不況とも相まって、学費の高い私学は苦境を強いられている。そうした中で、120年間の歴史を持つ都内の仏教系の伝統女子校が、創立以来初となる僧籍を持たない民間出身の校長を採用し、話題となっている。

初の民間出身校長が誕生したのは、学校法人淑徳学園、淑徳SC中等部・高等部だ。東京ドームの真裏、文京区小石川に立地し、後楽園や小石川植物園に囲まれた閑静な環境と、東京メトロ丸ノ内線や都営地下鉄大江戸線、JR総武線など5路線で通学できるアクセスの良さが人気となっている。

学校が創設されたのは今からおよそ120年前、1892年(明治25年)のことだ。輪島聞声尼が「淑徳女学校」を開校。設立者が浄土宗へ移管された後も、一貫して「進みゆく世に後れずに、社会の変容に適応する淑徳を備えた女性を育成する」という輪島尼の教えを忠実に遂行してきた。2008年に現在の「淑徳SC」に校名を変更。SCとはSuccessful Careerの略称である。

そんな伝統ある学校がなぜ、民間出身校長を迎えたのか。そのヒントは「SC」という校名にあった。

今春より校長に就任したのは大手電機メーカー「東芝」出身の大島謙氏だ。大島校長は1948年長崎県生まれ。東芝時代には欧米を舞台に海外の市場開拓や投資事業に従事し、1999年には東芝アメリカ・ベンチャー・キャピタル社の社長に就任。その後は活躍の舞台を教育現場に移し、2003年に三重県初の民間人校長として県立白子高校の校長に就任。その後私立皇學館中学・高校の校長を経て、今年4月より淑徳SC中等部・高等部の校長に就任した。

淑徳SCがこうした学校改革の最前線で活躍してきた大島氏を招へいしたのは、私学間の競争が高まる中で、生き残りをかけて思い切った改革を行うためであった。

淑徳SCは2008年に、それまでの「淑徳学園中学校・高等学校」から名称を変更。全国的にも珍しい「SC」というアルファベットを使用した。このSCとは前述の通りSuccessful Careerの略称で、学力はもちろんのこと、向上心や自立心、礼節などを養い、よりよく生きるための地力を身につける教育を実践していくという志の表れである。

具体的には、正・副3人担任制を設けてきめ細かい生徒指導を行ったり、「SCアワー」と銘打って情報リテラシーや日本語リテラシー教育、論語の講読、卒業レポート作成など、受験勉強だけでは身に付かない「進学後に役立つ力」の育成に努めたりと、一見斬新だが明治時代の寺子屋や私塾にも通じる根源的な人間教育に力を入れている。

もちろん大学進学も重視しており、通常授業終了後の7時限目講習やチューター・コーチャーシステムによって発展学習をサポート。その成果として、昨年度の在籍生からは中大、明大、早大などの難関私大、さらには国立の東京海洋大学への合格実績を出している。

大島新校長は、「稽古照今(けいこしょうこん)」という言葉を理念に掲げている。これは古事記の冒頭に書かれた言葉で、古(いにしえ=昔)を考え学問にはげむことで、今を明るく照らすことができるという意味合いがある。大島新校長は校長就任に際して「学校を良くするために、今までの古き善き伝統を一切捨ててしまったり、突然進学校にするというような小手先のCHANGEをするのでなく、『稽古照今』を実践し、これが最後のチャンスという覚悟で学校を作りかえていきたい」とその意欲を語っている。

東京は私立の中学・高校が林立しており、私学間の競争も激化している。平成21年4月現在、都内には182校の私立中学校があり、生徒はおよそ8万人にのぼる。また、私立高校は全日制と定時制を合わせて237校があり、都内の高校生のおよそ6割にあたる17万人の生徒が在籍している。
これは、都立高校の定員が公立中学の生徒在籍数の55%ほどに設定されていることが主要因だが、他県に比べて都民の私学志向が強いことも要因である。公立志向が強まっているとはいえ、面倒見の良い私立、進学実績の高い私立に子どもを通わせたいと考えている親は決して少なくない。
そうした中で、淑徳SCのような、伝統を大切に受け継ぎながらも時代に合わせて融通無碍に新しいものを取り入れていくという、まさに「稽古照今」の姿勢がこれからの私学に求められていると言えよう。

淑徳SC中等部・高等部では、7月17日(土)にオープンキャンパスの開催を予定しており、9月以降は学校説明会を毎月2回から4回実施するということで、日時など詳細は随時淑徳SCのホームページ上にて情報公開していくという。
(TechinsightJapan編集部 鈴木亮介)