100年に一度の大不況に見舞われる昨今。国際取引所連合の発表によると、2008年度の新規株式上場をする企業の数は、前年比58.8%の減少という大幅な下落ぶりを示した。またそれに呼応するかのように、上場廃止をする企業も増加している。2006年末には東証1部2部、マザーズ合わせ2416社あった国内上場企業数も、今年6月1日時点では同2364社にまで減少しているということだ。
「上場企業イコール信頼の証」という構図があるが、一方で企業の株式上場について、従業員はどう捉えているのか。アイピーオー総合研究所株式会社は、被雇用者の側が企業の株式上場をどう捉えているか知るべく意識調査を行った。
調査は今年3月から4月にかけて、特定の企業の従業員にとどまらず広く上場会社および非上場会社の従業員を対象に行われた。業種等も様々で、非正規社員も対象となっている。男女368名からの回答を得たが、そのうち上場企業勤務者が3分の1ほどの121名となっている。
調査では「転職対象として上場か非上場かどちらを選ぶか」という質問がなされ、それに対しては「こだわらない」という回答が最も高く、60%強を占めた。それに対して「上場企業を転職対象として選びたい」とする人は半減し全体の3割ほどとなった。一方、「非上場企業が良い」と答えた人は全体の7%にとどまった。「こだわらない」人が多いことについては、就職難の現状で、こだわる余裕がないという背景があることが推測される。
また、性・年代別に見ると、全体的に「こだわらない」の回答が過半数を超える中で、20歳から39歳女性については上場会社志向が強く、半数近くに達していることがわかった。上場企業へこだわる理由としては、次のような声が聞かれた。
「社会での信頼度が違うと感じる」(33歳女性)、「(大きな会社のような)向上心のある企業に勤めていると自分を高めることができ、最終的には人生の糧にもなると思う」(32歳女性)、「やはりブランドイメージは大切」(32歳女性)
では、上場企業であることのメリットについてはどのように考えているのか。複数回答形式で挙げてもらったところ、全体で最も高かったのは「優良企業のイメージ」で48.6%、以下「経営状態が明瞭」が47.6%、「貸与、福利厚生、社会保障などがしっかり整備されている」が46.2%などとなった。この結果については、現在上場企業に勤務している回答者のみに絞った場合もほぼ同様の傾向になっている。
株式の新規上場は非常に難しいものであるとの一般的な意識があるためか、最も多かった回答が「優良企業のイメージ」であった。外部から「上場企業は優良企業である」との対外評価が上場企業にとっての一番のメリットであり、これが企業にとって大いに役に立っているという意識があると考えられる。
調査ではさらに、「あなたが社長なら自分の会社を上場させたいか」という質問に対しては、「上場させたい」という回答が50.3%で圧倒的に多くなり、「わからない」が32.9%、「上場させたくない」が15.8%となった。被雇用者の側からすれば、労働環境さえ良ければ上場・非上場にこだわりは持たないものの、経営者の立場なら別、という意識が読み取れる。
株式の上場は、信用が高まり資金調達が容易になるなどのメリットがある一方で、第三者による株式大量取得の危険や、株主の意向に配慮する必要から思い切った経営が出来ないといったデメリットも指摘される。より多角的、多面的に検討していく必要がありそうだ。
(TechinsightJapan編集部 鈴木亮介)