ワキガや汗とも異なる、腐った魚のようなニオイ。「魚臭症候群（トリメチルアミン尿症）」と呼ばれ、特殊でやや不快なニオイを放つ人々がいることをご存じであろうか。長年にわたりその体質に苦しんできた英国の若い女性は今、音楽活動を通じて「皆さん、この病気をもっと理解して」と呼びかけている。

「人との距離が縮まるとドキッとする。周囲の人の表情がくもると、ハッとしてしまう。おそらく原因は私の体臭だもの」。そう語るのは英ロンドン出身のシンガーソングライター、キャシー・グレイヴスさん（22）。彼女は遺伝的要素もある代謝性疾患、「魚臭症候群（トリメチルアミン尿症）」という病気に苦しめられてきた。食品に含まれるコリン、レシチン、トリメチルアミンオキシドなどは腸内で酵素の影響によりトリメチルアミンという物質へと変化するが、その分解処理を行えないとトリメチルアミンが血中を流れ、体臭となって放たれるという仕組みだ。

「自分のその体質を知ったのはたった3歳の時だったわ。姉が母に“キャシーと一緒の部屋はイヤ。だって腐った魚みたいなニオイがするんだもの”と不満をもらしたことがあるの。」

母親に連れられ、キャシーさんはその後いくつものクリニックで診察を受けている。だが正しい診断を下せる医師はおらず、たまたま聴いていたラジオ番組で偶然にもその体臭の真実を知ったのであった。だがどんなに強い消臭デオドラントを用いてもそれは消えず、キャシーさんは「自分自身ではどうしてもそのニオイを感じ取ることが出来ないの」と悔しがる。

「バレンタインデーにボーイフレンドのドムが高級レストランで食事をごちそうしてくれたのよ。自分なりに禁じていたつもりの食品をたくさん摂ってしまった。その後の私はもうプンプンよ。ロマンチックな気分はぶち壊しね。」

ドム・オリヴァーさんの励ましもあり、無駄な抵抗を諦めた彼女はこのほど、人々にその病気について理解を深めてもらおうと英メディア『mirror.co.uk』の取材を受け（画像はそのスクリーンショット）、どのような食べ物でその体臭が増強するかをつきとめようと、日々食事内容に悪戦苦闘していることを明らかにした。分かったのは魚、赤身の肉、卵、緑黄色野菜がダメだということ。何を食べて栄養を摂ったらよいのか途方に暮れてしまうそうだ。

代謝医学を専門とする「ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン病院」のロビン・ラックマン博士は、「魚臭症候群を知っている医師はごくわずかで、患者さんは長い時間をかけてやっと専門医のもとにたどり着く、これが現状です」と話す。キャシーさんは音楽活動を通じ、この病気への理解を深めてもらおうと頑張っている。清潔を保ってもなお体臭を持つ人の悩みは切実だ。眉をひそめてしまう前に、「体質なんだ」と理解してあげる優しさを周囲も持ちたいものである。
（TechinsightJapan編集部　Joy横手）