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【名画クロニクル】山田洋次 民子三部作と「幸福の黄色いハンカチ」を通して故郷を想う

山田洋次監督といえば、「男はつらいよシリーズ」、少し古ければハナ肇を起用した「馬鹿シリーズ」が娯楽映画の代表としてつとに知られるが、キーワードを「故郷」という視点に移すと、俄然光を放つ傑作として1970年の「家族」、1972年の「故郷」、1977年の「幸福の黄色いハンカチ」そして1980年の「遙かなる山の呼び声」の4作をセットで堪能すべきであろう。

「家族」「故郷」「遙かなる山の呼び声」は、いずれも倍賞千恵子が妻/嫁の「民子」という名で登場することから、俗に「民子三部作」と呼ばれるが、分類としては便宜的なものであり、映画の内容に照らせば、「家族」と「故郷」が井川比佐志が夫役で登場し、愛着のある故郷を去って新天地を求める夫に従う妻というテーマで共通している。

「遙かなる山の呼び声」と「幸福の黄色いハンカチ」は、高倉健が夫役で登場し、故郷を去った流れ者/前科者の男が帰ってくるのを待ち続ける妻というテーマで共通である。

また、「遙かなる山の呼び声」も「幸福の黄色いハンカチ」も元ネタはアメリカ西部劇から着想を得た作品であり、男女の絆として「黄色いハンカチ」が登場する点でも共通である。

ストーリーを簡単に紹介すると、「家族」は長崎の島で食い詰めて、北海道に入植し牧場経営を目指す夫と、ひたすら従っていく妻の、長崎から北海道までの汽車旅という、気が遠くなるような長距離ロードムービーである。

「故郷」は、瀬戸内海の島で砂利運搬船を経営していたものの、船舶の老朽化で食い詰めて、島を去っていく夫と、ひたすら従っていく妻の物語が、瀬戸内海の美しい海の情景とともに描かれる。

「幸福の黄色いハンカチ」は、九州から北海道へ流れ着いた炭鉱マンが、ヤケになった挙げ句罪を犯し、網走刑務所から妻が待っているかもしれない夕張へ向かうロードムービー。

そして、「遙かなる山の呼び声」は、北海道で女手一つで経営を営んでいる牧場に流れ者にしてお尋ね者の男が身を寄せて、やがて刑期を終えて戻ってくるのを待つ物語だ。

この4作は、いずれも夫婦の絆、故郷への想いが、北海道の、瀬戸内海のそして日本全国の美しい風景とともに綴られる作品であるが、特に「故郷」というものがセピア色に染まる美しいものではなく、厳しい生活から一人また一人と故郷を離れざるを得ない切迫した事情の中で、ひときわ輝きを増す「ふるさと」の重みが描かれる。

夫婦の姿として見た場合、倍賞千恵子の役どころは「夫に従う妻」「逆境でも夫を励ます妻」「何があっても夫を信じて待ち続ける妻」という、いわば男に都合の良い妻のイメージであるが、夫役の井川比佐志と高倉健は、正反対ともいえるイメージを演じている。

井川比佐志は、時に意固地で、思い立ったら人の意見も聞かないで自分一人で行動したがる、根はいい人なのだが、ある意味「困った夫」という役どころである。

高倉健は、常に冷静沈着で女を守ることにかけては男の鏡であるが、ヤクザな気風が時に道を誤らせてしまうタイプの夫を演じている。

どちらの夫像も、そして妻像も現代では特段の美徳であるとは思われていないが、全く否定されたわけでもないので、そういった意味でも故郷のイメージを紡いでいるといえるだろう。

全4作とも、飾らない日本の日常風景と、郷土の自然の雄大さが目にしみる名作である。
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)