writer : techinsight

【名盤クロニクル】「人生」そのものが響いてくる サラ・ヴォーン「枯葉」

(画像提供:Amazon.co.jp)

(ジャンル:ジャズ)

現在、ジャズヴォーカルといえばムードミュージックの一種として聴かれていることが多い。
それはそれで間違いではないのだが、やはりベテランと呼ばれている人の歌声は、ムードなどとは次元の違う「人生」の味わいを感じさせてくれるものである。それを実感させてくれるのが、サラ・ヴォーンの「枯葉」である。

このアルバムが日本でリリースされたのは、1982年である。その時に話題になったのが、「御大、サラ・ヴォーンが名曲【枯葉】を歌う」ということであった。

確かに有名な「枯葉」は収録されているのだが、原曲を大きくフェイクしてスキャットの超絶技巧を聴かせる曲として演奏されており、言われなければ「枯葉」であるとは気がつかない。

そこでアルバムを買った人は大きく失望してしまった。
ついには『「枯葉」という別の曲が入っているから、これは詐欺商法だ』とレコード会社にクレームを入れる人まで出た。

そして、日本盤のアルバムタイトルは「枯葉」なのだが、原題は「Crazy and Mixed Up」である。「もーなんだかわからない」タイトルで、実際にそんなニュアンスの意味らしい。アルバムタイトルとしても今ひとつイケていない。

そんな不幸な目に遭ったアルバムだが、リスナーは気を取り直して1曲目「時さえ忘れて」を聴き直して、あまりの素晴らしさに仰天したのである。

これはもう「歌」などという次元を超えた「人生」そのものの味わいである。歌の主人公の人生でもあり、サラ・ヴォーンの人生でもあり、そしてリスナー一人一人の「人生の響き」が聴こえてくる。

この曲は、星の数ほどあるジャズヴォーカルの中でも、名唱の中の名唱であり、この気品と格調を超える演奏を探すのは至難であろう。

問題となった「枯葉」は、さすが御大としか言いようのない、技巧臭がしない超絶技巧で、余裕のスキャットを聴かせる。

他の曲は、あまり日本人には馴染みのない曲が並んでいるが、これこそ「懐メロ日本企画ジャズアルバム」ではないことの証である。

ボサノヴァ風の曲や、ミドルテンポの軽快スイング、そして重厚なバラードなどがあるが、ベテラン伴奏陣の絶妙なアンサンブルで、全体のムードが統一されている。

ジャズヴォーカル初心者からコアなマニアまで、「一家に1枚」レベルの名盤である。

(収録曲)
1. 時さえ忘れて
2. ザッツ・オール
3. 枯葉
4. ラヴ・ダンス
5. ジ・アイランド
6. シーズンズ
7. イン・ラヴ・イン・ヴェイン
8. ユー・アー・トゥー・ビューティフル
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)