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【親方日の丸な人々】化ける物品は使い放題

今月2日、農林水産省の出先機関である地方農政局で不正物品経理が発覚した。「また農水省か」という声が出そうだが、実態はかなり同情に値する話なので、今回はその不正物品経理の種明かしを紹介したい。

不正経理の大半は、物品の代金を支払いながら納入は翌年度にずらす「翌年度納入」で393件(計9709万円)。事務用品を架空発注し業者に資金をプールする「預け」は6件(計57万円)、業者に虚偽の請求書を出させ、異なる物品を納入させる「差替え」は5件(計 186万円)あった。(日経NETの報道から引用)

お役所の予算は年内に使い切らねばならないというのは、広く知られるところである。これは当のお役人も「お役所最大のムダである」と認識はしているが、残予算を出すと、当初予算要求の正当性が疑われることになるので、死んでも使い切らねばならない。

過大な予算を要求するからだと言われれば、その通りだが、地元経済への貢献を考えると、予算確保は多ければ多い方がよい。しかし、予算執行がそれに追いついていないのだ

特に事業会計で余った予算を、物品購入で消化するのは経理マンの腕の見せ所にすらなっている。かくして、半年先までの消耗品を大量購入するのである。なぜ消耗品ばかり買うのかといえば、一定金額以上の物品は備品として台帳管理しなければならないが、紙や鉛筆などの消耗品ならば、台帳管理は必要ないので目立たないからである。

困ったことに、このお役所の無駄遣いに頼って、1年の売上げの相当数を稼ぎ出す地元商工業者がいるから問題は複雑だ。お役所が無駄遣いをやめたら、かなりの地元零細企業が倒産の憂き目を見る。

請求書の名目と実際の納入物品が異なる「差替え」については、色々なケースがあるが、たとえばお役人の健康管理のために体脂肪計付き体重計や血圧計を買ってやりたくても、そのための予算費目はほとんどない。世間の目も厳しいからおおっぴらに予算要求もできない。そこで、印刷用紙とかトナーインクとかを「買ったことにして」、体重計などに差し替えるのである。

また、学校の授業で役所施設の見学に来た子ども達にせめてジュースの1本でもごちそうしてやりたくても、その予算はない。そこで、消耗品を買ったことにして、その金で業者にジュースを調達させるのである。

このようにして、お役所の不正物品経理の大半は、制度上やむにやまれぬ事情で発生したものである。むやみにお役人を叩くよりも、どうやってその仕組みを改善するか、我々国民も知恵を出し合うべきであろう。
(TechinsightJapan編集部 石桁寛二)