writer : techinsight

【3分でわかる】モテキ

 草食系男子とやらが予想以上に市民権を得てしまった今の世に、注目を集めている漫画がある。イブニングで連載中の「モテキ」、コミックス2巻が発売されたばかりだというのに、漫画好きの間ではかなり評判が高い。

 主人公は「藤本幸世」。すぐに辞められる、楽だという理由でバイトや派遣を続けてきて気がつけば30歳は目前に。これまでに女性と付き合ったことはなく、なかば諦めかけていた頃に3人の知人女性から同時に連絡が入った。これが噂に聞く“モテ期”かと舞い上がり、女性らの誘いに応じることに。藤本に明るい未来はやってくるのか?

 男性向け漫画、特に青年誌において、モテないということはそれだけで主人公たりえる重要なファクターである。モテない主人公が1.ある日突然モテモテになる、2.努力の末モテるようになってくる、3.なにをどうがんばってもモテない、の概ね3通りに分かれるものだが、この作品はそのどれにも当てはまらない。しいていえば4.なにもしないから当然モテないまま、である。

 藤本は必要以上に自分自身に価値がないと考えている。そのくせ女性で辛酸をなめるたびに相手のせいにし、自分をふり返ることはない。しかもその自覚は十分にあるときたもんだ。要するに、だめ男なのである。

 女性からのライトなボディタッチに対し誘っているのかと邪推。そんなことで頭がいっぱいのせいで、1つの傘に入っている女性の肩が濡れていることにすら気づけない。男として非常に幼稚であり、それでいながら高望みばかりしている。これではだめだと妄想の中で過去の自分に『そこら辺の女で手ェ打っとけ』などとふざけたことを抜かす始末。 少しでも自分の思い通りに事が運ばないとふめばすぐに投げだし自己完結。自分からはなにもせずに愛されたい愛されたい、こんな男がモテるわけがない。

 だがしかし、そこは漫画。やはり藤本はそれなりにモテている。彼女でもない複数の女性とデートやキスをしているし、外泊の経験すらある。モテる、モテないの基準をどこに置くかで見は大きく変わってくるが、本当にモテない男からすれば藤本は同類ではないだろう。

 青年誌では一般に、モテる=ヤレるという図式がある。藤本もそう考えているようなふしがあり、30年近い人生でただの一度しか経験がないことが自身をモテないと思い込んでいる原因であると思われる。藤本のモテたいはヤリたいと同義であり、恋心ではなく下心を胸に秘め、卑屈に女性に近づいているのだ。作品とはなんら関係ないが、この時点で彼は草食系男子の定義からははずれていることになる。

 えんえんと藤本をこき下ろしてしまったが、彼の非常に現実的なだめ加減がこの作品の魅力である。ちなみに作者である久保ミツロウ氏は女性だ。女性目線であればこそ、ここまで藤本を残念に描けるのであろう。リアルすぎるだめ男の残念ファンタジー、それが「モテキ」である。

 なにもしないでモテないと嘆くばかりの男性たちに、登場人物の台詞を借りて一言いわせていただく。『自分ばっか傷ついたみたいな顔してんじゃねぇよ』。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)