writer : techinsight

【映画行こうよ!】希望を持たせつつ辛いラスト。映画『蟹工船』は傑作か?

(C)2009「蟹工船」製作委員会

7月4日から公開中の話題作、SUBU監督の『蟹工船』。言わずと知れた小林多喜二のプロレタリア文学の代表作を、100年に一度の大不況の今、「派遣切り」や「ワーキングプア」といった苦境にあえぐ若者たちの境遇に重ね合わせ、“なるべくして映像化された”渾身の一作である。最初は記者も「蟹カマ缶の前売り特典」や、「デモ行進」など過熱したPRや映画化に『蟹工船』が、一人歩きする怖さ。を感じたひとりだが、映画を見て納得。“プロレタリア・アクション娯楽作”として見ればいいのだ。

「映画としてどうなのか?」と聞かれたら、「すごく面白い。」としか言いようのないSUBU監督の『蟹工船』。むずかしい考えは抜きにして、「毎日の仕事に疲れたら面白い映画を見よう。」というぐらいの気持ちで見るのがちょうどいい。苦しい時こそ、娯楽や感動は必要である。

資本家の浅川(西島秀俊)は、気に入らないと杖で激しく労働者を叩き、でっぷり太った雑夫長(皆川猿時)と共に暴力で労働者を支配する。彼は無意味な帝国主義を掲げて、他の資本家と共に日本海軍と手を組み、無理な蟹工船事業で利益を上げている。
そんな状況下に置かれ、最初はただ働くのみであった労働者たち。ある日、漁中に小船で海に出た漁夫の新庄(松田龍平)と塩田(新井浩文)は嵐でロシア海域に流されてしまう。その後目にした光景と、あるユーモラスな男の言葉(本当にユーモラス!ぜひ劇場でお確かめを。)によって、いままで「“幸せな来世”こそが生きる希望。」であった新庄の心に“革命精神”が芽生える。蟹工船に戻った新庄は、「労働者の人権を得るために」皆を統率する男に生まれ変わるのだが・・・・・。

(C)2009「蟹工船」製作委員会

希望を持たせといて、なかなか辛い終わり方。原作の「グロさ」を省いた分、ストーリーはシビアに仕上げている。スピード感がある為、暴力シーンも見ていてそんなにツラくない。西島秀俊松田龍平高良健吾と、世代別に今が旬のイケメンを揃えているがいわゆる女子を喜ばせる為のシーンは封印。そのため、少年雑夫の清水役の柄本時生や、バラエティ番組で人気のTKO(木下隆行、木本武宏)など若者に人気のあるキャストが目を引き、脇を固める個性的な労働者の中に『ニセ札』の三浦雅己や、『童貞放浪記』の山本浩司など邦画出演の多い役者を配したのはさすが、映画全体のバランスが上手くとられている。

登場人物の思想は大正時代でも衣装は近未来風、しかし蟹を加工する機械プレス作業とカニ身を取り除く作業はきつく、(蟹漁をする)船はロシア船に襲撃され沈没の危険もあり、「常に死と背中合わせ」なのは今も昔も変わらない。映画に時代設定は無くとも、昨今のニュースを照らし合わせるとかなりリアルな話でもある。

ラスト、今を生きるすべての人が同じ気持ちになるシーン。機械部品の輪の中に、人が手を組む象徴的なデザインの旗とともに彼らの願いは届くのか?暗いようで爽やか、軽いようで見ごたえのある傑作に仕上がった。

ちょっと欲を言うと、雑夫・根元(高良健吾)の初恋の少女(谷村美月)の出番が少ない。彼女のファンは物足りないであろう。
(TechinsightJapan編集部 クリスタルたまき)