writer : techinsight

【お笑い峰打ちコラム】芸人青田買い 椿鬼奴

 女芸人ブームも一段落したころに、じわじわと露出を増やしている「椿鬼奴」(よしもとクリエイティブ・エージェンシー)。顔と名前は知っていても、どんな芸人なのかは知らないという人も多いのではないだろうか。

 鬼奴は東京NSC4期生。同期にはインパルス、ロバート、森三中などがいる。現在はピン芸人であり、ネタはおそらく“セクシー講座”がもっとも有名。一方、増谷キートンとのコンビ「BODY」としても活動している。しかし椿鬼奴の名を一躍世に知らしめたのは、増谷、くまだまさしらからなるお笑いユニット「キュートン」での活躍であろう。

 今年の1月7日、松の内が明けるのを待たずに「あらびき団」で彗星のごとくテレビデビューしたキュートン。ボニー・ピンクの曲に合わせてポージングを決める前衛的なパフォーマンスに、なぜか私は笑いっぱなしだった。言葉が過ぎるかもしれないが、おもしろいことなど何一つ行っていないのにおもしろく感じて仕方なかったのだ。

 類似のおもしろさを持つお笑い芸人に「フォーリンラブ」がいる。フォーリンラブのショートコントにおける小芝居は、それ自体はおもしろくもなんともないものだ。仮に彼らがトレンディ俳優であればそれはトレンディドラマになり、ハリウッド俳優であれば全米が涙するラブストーリーになるであろう。フォーリンラブのネタがおもしろいのは、そんな小芝居をハジメとバービーが演じるからに他ならない。キュートンのパフォーマンスもしかりである。

 キュートンだけでなく、BODYのネタも前衛演劇を髣髴とさせるものが多い。それなのに笑ってしまうのは、鬼奴自体がおもしろいからだ。近頃テレビでよく披露するボン・ジョヴィに関しては言わずもがな。一人の中年女性がボン・ジョヴィを全力で歌うだけなのに、どうしようもなくおもしろい。それはやはり、鬼奴自体がおもしろいからだ。

 ただそこにいるだけではおもしろくない。同じネタを他の芸人がやってもおもしろくはならない。自身の存在とネタが交わったその瞬間、爆発的におもしろくなるのが椿鬼奴だ。唯一無二の不思議な力を秘めた芸人である。
(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)