writer : techinsight

【ドラマの女王】プレイバック朝ドラ名作。主要人物に“太宰治”のDNAが『純情きらり』。

今回の【ドラマの女王】は、今クールドラマに見切りをつけた記者が独断と偏見で選ぶ名作ドラマ、2006年(平成18年)のNHK連続テレビ小説、宮﨑あおい主演の『純情きらり』。昨年同じNHKの大河ドラマ『篤姫』で大大大ブレイクしてしまった宮崎あおいの、NHK初連ドラ主演作である。当時21歳のあおいちゃん。お茶の間の誰もがバージンだと思っていた彼女だが、もうあの時はあの“トンデモダンナ”と同棲中だったんだよね・・・・。

『純情きらり』という題名ではあるが、宮崎演じる主人公の有森桜子(ありもりさくらこ)はちっとも純情じゃない。会う男、会う男「虜(トリコ)」にしていく、どちらかというと魔性の女だ。最終的には八丁味噌の蔵元「山長」の跡取りで、ピアニストの達彦(福士誠治)と婚約、戦後に結婚するのだが、それまでが紆余曲折。

劇団ひとり演じる師範学校の物理教師・斉藤と婚約してみたり、幼馴染みのキヨシ(井坂俊哉)に片思いされたり、後に長姉の笛子(寺島しのぶ)と結婚する魅力的な男性・杉冬吾(すぎとうご)への思いが断ち切れなかったりと、桜子は昭和初期に生きた女性としてはかなり自由奔放に恋をする。というかモテる。宮崎あおいだから仕方ないけれど。

このドラマは、小説家太宰治の次女であり作家の津島佑子(つしまゆうこ、1947年~ )の『火の山―山猿記』という小説が元になっている。津島の母親の山梨の実家がモデルになっており、だからといって母が桜子のモデルでは無い。津島本人は幼い時に父と兄を亡くし、離婚し、内縁の夫との間に生まれた子供も早く病気で亡くしている。(現在は、日本文学者藤井貞和と再婚。)はげしい恋と激動の半生を送って来た彼女の作品は人生の“日なた”も“影も”色濃く表わし、桜子は作者自身ではないかと記者は思う。

原作とドラマ『純情きらり』とは主要人物こそほぼ同じであるものの、舞台や人物描写など多くの点で異なっている。が、どちらにしても激動の時代を過ごした当時の人々の記録という点では変わらない。ドラマティックな脚本は、『ラスト・フレンズ』浅野妙子の仕事だ。

『純情きらり』は、NHK朝ドラにしては物語の展開が速く、飽きないドラマであった。前半、笛子(寺島しのぶ)、杏(モモ)子(井川遥)、弟、おじいちゃん(八名信夫)と出てきて『若草物語』みたいなのだが、治安維持法や、日本が戦争へ向かう暗い序章のような出来事により、家族それそれが苦境に立たさせる。そんな時代においても好きな音楽や恋にまっしぐらな桜子はキラリと輝く。

宮崎あおいだから高視聴率だった訳もわかるが、物語もメリハリが利いていた。中盤、かなりリアルに戦争を描写したり、婚約者の達彦が戦後ノイローゼにったりと朝ドラにしてはハードな面を持つ。極めつけがラストに近づくにつれ肺結核が重症になる身重の主人公桜子。『純情きらり』は、いままでの朝ドラにはない終わり方をする。

津島佑子が伝え持った父のDNA?が強く作用しているキャラクターが、姉の笛子(寺島しのぶ)と結婚する津軽出身の画家・杉冬吾(西島秀俊)である。津島女史は越えられない父の大きな存在を冬吾のキャラクターにぶつけているようだ。生活能力に乏しくたびたび騒動を起こすが芸術に生きる冬吾は、桜子に大きな影響を与え、恋人よりも特別な人。冬吾のモデルは当然太宰治。それを西島秀俊が魅力的な津軽弁で演じた。飄々とした冬吾が好演で西島はこれを機に一気にブレイク。この夏公開の『蟹工船』に至る。

『わたしってブスだったの?』(TBS系)から気になり続けて13年あまり、『純情きらり』で西島の良さが認められてよかったと思ったのを覚えている。
(TechinsightJapan編集部 クリスタルたまき)