writer : techinsight

3分でわかる「デトロイト・メタル・シティ」

 撮影中からなにかと話題となっていた「デトロイト・メタル・シティ」がいよいよ23日、公開された。松山ケンイチ、加藤ローサのスカートをめくって「メス豚」呼ばわり謝罪!という記事を読んで一体どんな物語なのかと困惑した人も少なくはないのではないだろうか。この映画の原作は白泉社から出版されている同名漫画で、現在は6巻まで出ている。かいつまんで紹介しよう。


 主人公は気の弱い青年「根岸崇一」。根岸はその性格とは裏腹にデスメタル系バンド「デトロイト・メタル・シティ」(以下DMC)のボーカル&ギター「ヨハネ・クラウザーⅡ世」として人気を博していた。しかし、根岸が本当にやりたいのは“オシャレ”なスウェディッシュ・ポップ。アコースティックギターを抱えてたびたび街で歌うも、その評価は低い。理想と現実のギャップに悩む根岸だが、ブラックメタル界の帝王「ジャック・イル・ダーク」との対バンや凶悪なバンドだけを集めたメタルフェス「サタニック・エンペラー」を通し、DMCとして、クラウザーとしての人気と地位を確かなものにしていく。そして根岸は「クラウザーⅠ世」と名乗る人物とのメタル勝負に敗北。その目には涙がにじんでいた。

 ここで6巻は終了している。これだけを読むとなんだか青年がメタルを通して成長する的なイイ話に思えるが、そうではない。デトロイト・メタル・シティは超絶ギャグ漫画だ。

 恥ずかしながら、私は音楽に関しては本当に疎い。それはクラウザーを見て、あっ閣下だ、と思うほどの酷さである。この漫画を読み始めてすぐは“1秒間に10回レイプ”や“48のポリ殺し”がいまひとつピンと来なかった。本当にそんなことをするデスメタルバンドもいそうだ、と考えてしまったのだ。それが読み進めるにつれ、あまりのぶっ飛びぶりにギャグであることが理解でき、ほっとした。笑いがやって来たのは1巻を再び手に取った2周目に突入してからだった。

 では、1周目はどうだったのかというと、ファンの方々、どうか怒らないでもらいたい。私はこの作品をヒーロー物として読んでいたのだ。

 大人しい青年がちょっとしたことで覚醒し、クラウザーに変身。普段の姿からは想像もできないほど大暴れして過ぎ去っていく。ほら、まるでヒーロー物ではないか。ファンの間でも評価の高い4巻の見開きページは、必殺技だ。ライダーキックなり、ペガサス流星拳なり、かめはめ波なり、心に浮かんだ必殺技を当てはめて読むとしっくりくる。私は“悪魔玉”の存在を知りながらも、このシーンこそが元気玉だと思った。クラウザーから発せられる卑猥な言葉の一つ一つが集まって大きな力となり、読む者になにかを与えている。

 ただこの作品が一般のヒーロー物と違うのは、必ずしも誰かを救う目的で変身するのではないということ。“変身”中の根岸の思考は、驚くほど自分勝手で気持ちが悪い。いつも根岸を酷い目にあわせる女社長の『お前はクソゴミ以下のゲロカス野郎』(5巻)という台詞は言い得て妙だ。そんな自分中心の理念でクラウザーになり、やりたい放題の根岸を見てスカッとする人も多いだろう。そして我に返った根岸は必ずといっていいほど良心の呵責にかられる。だからこそ読者は根岸を憎みきることができず、安心してパワーを分けてもらえるのだ。この作品は実際には絶対にあり得ないことだからこそ面白いという、漫画の基本に忠実に作られている。

 この作品はとにかく卑猥な台詞や下品なシーンが多い。それをどう映画にするのかという部分にファンの注目が集まっている。今をときめく松ケンの『メス豚!』に世の女性がどのような反応を見せるのか、楽しみだ。

(TechinsightJapan編集部 三浦ヨーコ)