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アンケートに協力いただきありがとうございました!
それは、北島の両手の中指がゴールのタッチ板を触れた瞬間であった。北京五輪男子100m平泳ぎの世界新記録59秒81が、ウォーターキューブ場内の電光掲示板に光った。直後、北島の雄叫びが場内に響き渡る。このレースを見ていたすべての人々は、全身の血液が泡立ったに違いない。金メダルの獲得である。
ここでは、決勝の場で北島の中で起こっていたであろうドラマを再現してみよう。
スタート直前の北島の心拍数は、160/min。心臓が一回の鼓動で送り出す血液の拍出量・全身の毛細血管拡張・理想的なアドレナリン量、顕在意識と潜在意識が完全にシンクロし、それらはすべて北島のコントロール下にあったであろう。もちろん、それらをレース中に筋肉へ供給する体制も準備万端である。
スタート台に立ち、スタートの合図に集中する。合図とともに北島の身体が水の中に吸い込まれる。大変リラックスした入りである。この時点で、すでに「イケル」という手ごたえを感じていたはずである。
スタートから中盤までのストロークテンポ・ストローク数、いずれも予定通り。50mターンで、27秒台後半。まだ心も体にもゆとりがある。その後先頭で浮き上がり、勝負となるラスト25m、ここでもあくまで北島はリラックスしたまま、しかし同時にさらに速度を上げていく。ゴールへのラスト10mを4ストロークで泳ぎきり、タッチ板に触れた北島の中指にはすでに金のメダルが光って見えた。
レース中、おそらく北島の眼中に他の選手の存在はまったくなかっただろう。北島が闘っていたのは紛れもない「北島康介」自身だったのだ。
平井コーチとの間で確認したシナリオ通りに演じきり見事二大会連続金メダルという偉業を成し遂げた北島。このドラマは、4年間に渡る超大作である。
実は、北島の宿命のライバルと言われたブレンダン・ハンセンとの勝負は、6月のジャパンオープンで北島が男子200m平泳ぎで世界新記録を出したときに、すでについていたのである。
ハンセンが米国内予選で男子200m平泳ぎで五輪出場を逃したのは、このときの北島が出した世界記録を目の当たりにし、戦意喪失をしたためではなかろうか。
レース後インタビューの冒頭、北島の目から光るものが瞼を覆い、声が出なかった。「何も言えない」と絶句して涙する北島の姿が、アテネ五輪以降の彼の苦闘を物語っている。
この金メダルは、北島のメンタルの強さがもたらした勝利である。
さあ、エピローグ。
北島の男子200m平泳ぎ金メダルの可能性は・・。この場で改めて言及するまでもないだろう。
表彰台での北島の視線は、既に男子200m平泳ぎ4コースのスタート台に注がれていた。
文責:Hiroshi Itoh <元千葉県水泳連盟 競技役員、日本体育大学体育学部卒 スポーツ心理学専攻>
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