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アンケートに協力いただきありがとうございました!
北京オリンピック、最初の金メダルを日本にもたらしてくれるであろう列島中の期待を一身に受けている北島康介。彼の最初のレースである競泳男子100m平泳ぎ予選のスタートまで1時間を切った。闘いを目前に控えたまさに「今この瞬間」の北島の胸中を占ってみた。
現地時間で2008年8月9日21時15分。中国北京ウォータキューブ国家水泳場の選手控え室には30分後に男子100m平泳ぎ第8レースに出場する北島康介の姿がある。
両耳には音楽プレーヤーからのお気に入りの音楽がヘッドセットを通じて流れている。レース前に音楽に興じているのであろうか。いや違う。これはレース前の集中力を高めるための規定ルーチンである。
恐らく、音楽は北島の頭の中には入っていっていないであろう。レースのシミュレーションを行っているのだ。これはレース中の内容をルーチン化してそれを実行するためのものである。
水泳のトップアスリートはこれを元に、ゴールタイムを想定する。恐らく予選では、ラスト10mを流し楽に59秒台中盤から後半。決勝では、ラスト10mを予定のルーチンを実行してゴールタイムは58秒台中盤。
北島にとって予選は決勝のためのシミュレーションである。
そのルーチンは以下のとおりと思われる。
スターターのオンユアマークス(よーい)→グラブスタート→角度があり、水しぶきのあがらない入水→水中での推進力を生かすため深めの入水→一掻き一蹴り一ドルフィン→浮き上がり→50mターンまでに決められたストローク数→50mターン→一かき一けり一ドルフィン→浮き上がりラスト10mまでのストローク数→ラスト10mからゴールまでのストローク数→ゴール。
これらルーチンを実行するためには、心臓・血管・内臓・筋肉等々・・肉体のすべてが理想通りに働かなくてはならない。
通常、人の心理(意識)には「顕在意識」(意識的)と「潜在意識」(無意識的)があり、腕で水をかく、キックをする動作は「顕在意識」下にて行われる。顕在意識どおりに筋肉を動かすためには、筋肉に理想的な血液を供給しなければならない。ところがこの供給の役目を果たす心臓・血管収縮等の血液循環は「潜在意識」つまり無意識の下で行われている。このため、スポーツのトレーニングでは、筋肉や心肺機能を高めるとともに、競技中に潜在意識をいかに同調させることができるかが重要な課題となる。
しかし、舞台が大きくなればなるほど、不安、期待、緊張、他選手の言動など外部からの心理作用が大きく作用し、レース中に顕在意識と潜在意識を理想の形で同調させることが難しくなる。
したがって、大きなレース本番での一番大きなファクターはセルフコントロールである。適度な緊張感とトレーニング中の状況をいかに再現するかである。
北島のセルフコントロールは「ずば抜けている」。北島を表現する一つの言葉に「有限実行」がある。
彼は多くのアスリートがなかなか口にできないことをあえて口外し、そのプレッシャーさえも、凌駕してしまうのである。
北島には、火事場の云々は必要ない。ただ、予定通りのシナリオをキッチリ実行するだけで、金メダルを手に入れることができるのである。この北島に神様が更なる力を与えたならば、世界新記録もとてつもない57秒台を叩き出すであろう。第9レースのブレンダン・ハンセンはスタート台で、膝を震わせているかもしれない。
余談ではあるが、くしくも、鈴木大地元選手が高校3年の夏、千葉県インターハイの予選で、当時競技役員であった筆者の元に駆け寄り、入場用の音楽をリクエストしている姿と、今の北島の姿・・・・。
対照的な金メダリストの姿が同時に瞼に浮かんでくる。
いよいよ、戦いの火蓋は切って落とされる。場内に、選手コース順のアナウンスが流れる。北島の目にはスタート台とその先にあるプールの水しかない。
文責:Hiroshi Itoh <元千葉県水泳連盟 競技役員、日本体育大学体育学部卒 スポーツ心理学専攻>
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