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田中邦衛にとって、およそ5年8ヶ月ぶりのドラマ主演となった金曜プレステージ「鯨とメダカ」。
志田未来演じる女子中学生との交流を軸に、それぞれの世代が抱える“生きるとは何か”という疑問をこちらに問いかけてくるドラマだ。
『二宮発動機』の社長・二宮茂(田中邦衛)は戦後の混乱の中、裸一貫で商売を始め、75歳を迎えた今も仕事一筋に生きていた。
そんなある日、息子である副社長の太一郎(高橋克実)から年齢を理由に社長退任を求められる。
社長の座を追われた茂は、どうすることもできずただ途方に暮れるばかり。送迎の車を断った茂は、帰宅途中の電車で中学生の今井サチコ(志田未来)に出会う。電車の中で暴言を吐く男子高校生たちに臆することもなく、注意するサチコ。
浅草で150年続くせんべい屋の娘であるサチコは、祖母の初(八千草薫)、母親の艶子(余貴美子)と共に店を切り盛りしている。サチコを訪ねてせんべい屋にやって来た茂だったが、祖母・初のペースに巻き込まれ浅草の町へお使いに出されるはめになってしまう…。
原案は映画監督であり脚本家でもある松山善三。今から5年ほど前、松山自身が主人公・茂の年齢にさしかかったときにこの物語を思いついたそうだ。
75歳の茂と15歳のサチコ。60歳も年齢差がある二人だが、それぞれが抱える悩みや戸惑いを分かち合い、少しずつ距離が近づいていく。
下町・浅草の風景がいい。
人々の交流も、互いを見つめるまなざしもあたたかい。孤高の「鯨」だった茂が、「メダカ」であるサチコたち下町の人々にもまれ自分を取り戻していく様は見ていてワクワクする。いくつになっても、人は人の中でしか生きられないのだと教えてくれる。
元気で明るいサチコを演じるのは志田未来。あいかわらず芝居が上手い。クセのある演技だと個人的に思うのだが、目が離せない。気がつくとその演技に引きこまれいる。
仕事一筋に生きてきた一人の男が、周囲から「老人」だと指摘されこれからの人生が見えなくなること。
150年続いてきた老舗ののれんを任された、15歳の少女の葛藤。
置かれている立場が違えども本質のところでは同じ戸惑い、同じ悩みではないだろうか。
年齢差があるからこそ、素直に心を打ち明け、痛みを分かち合うことができる。
こんな友だちがいたら素敵だなと思えてくる。
「生きるとは、死ぬこととみつけたり」。
『葉隠』の言葉を祖母の初(八千草薫)が口にする。自分の死期を見すえた上での言葉だ。
庭で鳥が鳴き、時計の針の音が静かに響く自分の部屋で初は息を引き取る。家族の笑顔に包まれながら…。
今の日本ではなかなか見ることのできない「豊かな死」を描くことにより、浮かび上がってくる「豊かな生」。
世代を超えて胸に響く、良質なドラマだ。
(編集部 松本直樹)
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